【読みもの】百色の青森 津軽びいどろを訪ねて

  • 百色の青森 ねぶた
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青森をつくる もの ひと こと

『津軽びいどろ』の生まれた青森県の多彩な「いろ」と「ひと」と「もの」を訪ねて取材、土地の魅力を発信していくコンテンツです。今回は日本を代表する夏祭りで東北三大夏祭りのひとつ「青森ねぶた祭」。そのねぶたを制作するねぶた師の方にお話を聞きました。

青森をつくるひと

青森に鮮やかな夏を「ねぶた師」 青森に鮮やかな夏を「ねぶた師」

青森に3ヶ月間だけ現れる不思議な白いテント

4月の終わりが近づくと、三角形が特徴的な青森市のランドマーク「アスパム」のそばに、大きくて白いテントが現れます。外からでは中をのぞけない一見不思議なこのテントは、地元では「ねぶた小屋」と呼ばれていて、その名の通り、そこでは青森の夏の代名詞「青森ねぶた祭」へ向けた大切な準備が行われていました。

ねぶたの輪郭を見つける

針金と糸だけで描き出す、
ねぶたの躍動感。
完成形をイメージしながら、
点と点とを繋いでいく。

驚きと感動を創り出す「ねぶた師」の心意気

私たちが取材に訪れたのは5月も半ばを過ぎる頃、ねぶた師のひとりである竹浪比呂央さんのテントでは、3体のねぶたがそれぞれ立体になろうとしているところでした。青森県には、青森市・弘前市・五所川原市など地域ごとに各々のねぶた、ねぷたがあります。道幅が広い青森市のねぶたは横に大きく、ダイナミックな造形が多いことが特徴です。そのためなのか、ねぶた小屋の中は驚くほどの大小さまざまなパーツで立錐の余地もないほどです。

ねぶた制作は、まずねぶた師が図案を描き、そのたった一枚の原画を元に立体化していきます。輪郭や表情の土台となるのは、木組みに組まれた針金。針金の組み方や寸法に細かな設計図はなく、すべてが長年の経験から培った勘や感覚によるところ。「原画は、立体にしたときの姿を頭の中で設計してから描いていきます。ぐっと伸びた腕や浮遊感のある装飾が、しっかりと安定することも大切です。重過ぎると動かせないので、木組みをいたずらに増やすことはできません。又、幅9m、奥行き7m台車を含む高さ5mという限られた寸法のなかで、どれだけ新鮮で驚きのある表現ができるか。それが腕の見せ所であり、楽しいところです」と語る竹浪さんは、子どもの頃からねぶた小屋を遊び場にしていたという、生粋のねぶた好きです。

青森の自然の美しさから物語が紡がれていく

「青森のねぶたは、毎年新しくつくられます。祭りに出た後はすべて解体されるんです」。青森県の歴史や伝説、日本神話などになぞらえて物語のワンシーンを表現するねぶたは、テーマも意匠もその年ごとに変わっていきます。同じデザインを二度使うことはなく、だからこそ青森市のねぶたは「重要無形民俗文化財」になっているのだといいます。職人同士でねぶた小屋を行き来したり、創作のテーマについて話すことなどもほとんどありません。「でもね、同じねぶたは、ふたつとないんですよ。同じテーマでも切り取るシーンが違ったり、構図や意匠も、それぞれの感性で自由に表現しているものですから、全く違うものになるんです」。また、原画だけでなく、色や光の表現ひとつとっても試行錯誤の連続です。「ねぶたは“遠くから眺めたとき”に映えなきゃいけません。新しい色を使うときはまず色をのせてみて、イメージと違ったら、その部分を破って紙を貼り直して、また色を塗るんです。あとは、白熱球とLEDを使い分けて明暗や奥行きを表現したりね。1年中ねぶたのことばっかり考えていますよ(笑)」。

2018年 観光コンベンション協会会長賞受賞作品 
JRねぶた実行プロジェクト「風神雷神」

いつでも新しいねぶたの表現を追求し続けている竹浪さん。そのアイディアのヒントは、青森の自然の中にあるのだそうです。「新緑の奥入瀬とかね、本当にとても綺麗で毎年ハッとさせられます。季節ごとの光景は必ず見にいくようにしていますし、色や物語のイメージは青森の自然の中から生まれることが多いですね」。

2018年ねぶた大賞受賞作品 
青森菱友会「岩木川 龍王と武田定清」

色づく前の一瞬“紙の彫刻”

針金に和紙を貼り合わせて、
立体的な表情をつくる。
色で命を吹き込むその前の、
白い姿も美しい。

ねぶたの色が、見るひとの心をふるわせる理由

「1年のうち半分近くが雪で真っ白だから、青森のひとは“色に飢えている”んじゃないかな」。針金に紙を貼り終えた白一色の“紙の彫刻”を見つめながら、竹浪さんがぽつりとこぼしたひと言は、私たちの胸にとても深く響きました。厚い雪の壁に閉ざされた長い冬が過ぎて、短い春を迎え、色彩に溢れる夏が来たとき。夜を生き生きと彩るねぶたの姿は、その賑やかな夜は、どんなにか待ちわびたものだったでしょう。青森のひとたちがねぶたを特別に思う理由が、少し分かったような気持ちになります。「ねぶたは街のひとみんなでつくるんです。みんな他に仕事があるから、休日や夜の間に集まって。純粋なプロの制作者って本当に少ないんです。小学生の頃から授業でねぶたを写生したりね、青森にとっては生活の一部なんですよ。針金も紙貼りも着色も、自然と受け継がれているんです。でもね、大切な文化だからこそ、制作者としての技術を磨ける・認められる環境づくりも必要だと感じています。観光としてもねぶたに寄せられる期待は年々高まっていますから」。近年では“NEBUTA STYLE INTERIOR”として、インテリア視点でねぶたの魅力を発信し、祭りの期間以外でも技術力やデザイン力を伝えられる機会をつくりながら、次世代の職人育成にも携わっているとのこと。カフェやホテルに彩りを添えるインテリアとしてのねぶたは、青森の文化と土地の魅力を美しく伝えてくれます。

NEBUTA STYLE http://nebutastyle.com

今回の取材でお話をお聞きしたのは...

竹浪 比呂央 Takenami Hiroo

ねぶた師 ねぶた制作者

2018年 最優秀制作者賞受賞

1959年、青森県西津軽郡木造町(現つがる市)生まれ。1989年に初の大型ねぶたを制作して以来、ねぶた大賞、第30回NHK東北放送文化賞はじめ受賞多数。東京ドームのほか、ブタペスト、ロサンゼルスなど国内外で出陣ねぶたを制作。竹浪比呂央ねぶた研究所を主宰。青森ねぶたの創作と研究を主としながら、「紙と灯りの造形」としてのねぶたの新たな可能性を追求し続けている。

竹浪比呂央ねぶた研究所 http://takenami-nebuken.com/about/

今回登場した青森のひとは...

  • 毎年約300万人もの観覧者が訪れ、“日本人が一度は行きたい祭り”にも選ばれる日本を代表する祭りのひとつ。8月はじめの1週間、高さ5m・幅9m・奥行き7m・重さ4tにもなる大迫力のねぶたが20台以上も出陣して、青森市の中心部を練り歩きます。
  • ねぶたには“ハネト”と呼ばれる踊り手が、「ラッセラー!ラッセラー!」という独特の掛け声とともに並び歩きます。ハネトは自由参加で、衣装(正装)を着ていれば誰でも参加OK。衣装は青森のデパートなどで購入できるほか、レンタルを行っている店舗もあります。
  • ねぶたの運行状況を音楽で知らせる「囃子」。もともとは10種類もの演奏があり、現在でも運行するときの「進行」と、小屋へ戻るときの「戻り」の囃子が実際に演奏されています。囃子の違いにも注目してみたいですね。

「青森ねぶた祭」「跳人」「囃子」
画像提供:(公社)青森観光コンベンション協会

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